「海外に会社を作れば節税できるのでは?」
暗号資産や海外取引を行う事業者さんの中には、一度はこう考えたことがある方もいるかと思います。
実際、税率が極端に低い国や地域(いわゆるタックスヘイブン)に法人を設立し、その法人を通じて利益を上げれば、日本で課税されることを回避できるのではないか──。
しかし、こうした行為を防ぐために設けられているのが「タックスヘイブン対策税制」です。
国際的には CFCルール(Controlled Foreign Company Rule) と呼ばれています。
今回は、このタックスヘイブン対策税制の大まかな仕組みを、実務イメージとともに解説します。
1. タックスヘイブン対策税制の目的
タックスヘイブン対策税制の目的はシンプルです。
「海外の低税率国に子会社を置いて、そこに利益を移すことで、日本の課税を逃れることを防ぐ」
本来なら日本で課税されるべき利益を、形式的に海外に移してしまうと、日本の課税ベースが空洞化してしまいます。
こうした不公平を是正するために、
- 実態のない海外子会社
- 著しく低い税率で運営される会社
については、その利益を日本の親会社に「合算」して課税する仕組みが導入されているのです。
2. 「タックスヘイブン」とはどんな国?
タックスヘイブン(Tax Haven)とは、一般に法人税率が著しく低い、またはゼロの国や地域を指します。
代表例としては、
- ケイマン諸島
- バミューダ諸島
- パナマ
- 一部の中東諸国(UAEなど)
が挙げられます。
こうした国や地域では法人税が極端に低いため、企業がそこにペーパーカンパニーを設立し、利益を移す動きが世界的に問題となってきました。
3. 日本のタックスヘイブン対策税制の基本仕組み
仕組みの流れ
- 日本企業が海外に子会社を設立
- その子会社が低税率国にあり、実態が乏しい場合
- 子会社で得た所得を、日本の親会社に「合算」して課税
つまり、形式的に海外に利益を残しても、日本で課税されるというルールです。
4. 適用の判断基準(ざっくり)
タックスヘイブン対策税制の適用は、一定の条件を満たすかどうかで判断されます。ここでは代表的なポイントを大まかに紹介します。
(1)持株比率
日本の会社が海外子会社の株式を一定以上(通常は50%以上)保有している場合、その子会社は「CFCルールの対象」となります。
(2)現地税率
その海外子会社の実効税率が 30%未満(2025年現在)であると、タックスヘイブンと見なされやすくなります。
(3)実態の有無
- 現地で実際に事業を行っているか
- 従業員や事務所が存在するか
- 管理や意思決定が現地で行われているか
これらが整っていれば「実態あり」と判断され、CFCルールの適用を免れることがあります。
逆に「ペーパーカンパニー」の場合は、容赦なく合算課税の対象になります。
暗号資産取引でよくある「CFC該当パターン」
暗号資産とCFCルールが交わるのは、特に次のようなケースです。
ケース① 海外法人を通じて暗号資産を保有
- 日本の経営者がケイマン諸島などの低税率国に法人を設立
- その法人にBTCやETHを保有させる
- 売却益やレンディング収益を現地に留保
ケース② 海外取引所で法人名義口座を開設
- シンガポールや香港の法人を利用して、取引所に口座を開設
- 税率の低い国で利益を留保しようとする
ケース③ 海外法人でステーキング・マイニング
- 日本の事業者が海外に子会社を作り、そこで暗号資産のマイニングやステーキングを行う
- 現地に拠点はなく、すべて日本から管理
では、暗号資産取引の事業実態を整備するには?
上述したように、CFCルールが適用されるかどうかの判断基準のひとつが、「事業実態があるかどうか」です。
暗号資産に関連して具体的に見られるのは、以下のポイントです。
- 現地にオフィスや従業員がいるか
- 暗号資産の管理・意思決定が現地で行われているか
- 現地で実際に事業活動(マイニング、システム開発、取引サービスなど)を行っているか
暗号資産ならではのリスク
暗号資産は無形で移動も容易なため、従来以上にCFCルールとの相性が悪いとも言えます。
所得の「受動性」が高い
暗号資産の売却益、レンディング収益、ステーキング報酬は、しばしば「受動的所得」とみなされます。
CFCルールでは、受動的所得の割合が高い子会社は合算課税されやすい特徴があります。
履歴の透明性が逆に裏目に
ブロックチェーンは取引履歴が公開される仕組みです。
そのため、「どこのウォレットが利益を出しているか」は当局にも分析されやすく、形式的な海外スキームはリスクが高いです。
情報交換制度の強化
OECDのCRS(共通報告基準)ルールにより、暗号資産取引の情報も国際的に共有されつつあります。
「海外だから分からない」という時代は終わっています。
国際的な流れと日本の対応
タックスヘイブン対策税制は、日本だけの制度ではありません。OECDのBEPSプロジェクト(税源浸食と利益移転への対抗)に基づき、各国がCFCルールを整備しています。
日本もその一環として制度を強化してきました。
かつては「形だけの海外子会社で節税」も可能でしたが、現在は世界的に締め付けが厳しくなっています。
税理士からのひとこと
タックスヘイブン対策税制は専門的で複雑ですが、概要を押さえるだけでも大きなリスクを避けられます。
「海外だからバレない」「海外法人を作れば節税できる」という発想は、やめましょう。
海外進出や暗号資産の国際的取引を検討している事業者さんは、必ず専門家と相談し、制度を踏まえたうえで正しいスキームを構築することをおすすめします。
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